コルビュジェ設計の国立西洋美術館は世界文化遺産登録を契機に、当時の姿に近づけるための前庭整備や空調一新を目指し一年半休館、その舞台裏をカメラが追った。
松方コレクションの松方とは現川崎重工業の初代社長松方幸次郎。第一次大戦により造船で利益を得た松方は訪れた欧州で美術品を購入、その数なんと数千点。これを持ち帰り美術館建設を画策するも経済恐慌により作品は散逸。欧州に残る作品もロンドンでの倉庫火災消失、パリの約400作品は第二次大戦で敗戦したことで一時フランス政府管理下に。その後幸いにも日仏友好により日本でこれらを収蔵展示する美術館建設を条件に返還。奇しくも戦争がなければ松方コレクションもなく、コルビュジェが日本で作品を残すこともなかったのではと。。。
そして映画。(ここからネタバレ注意)少しは触れるであろうと期待したコルビュジェ建築整備についての紹介はほとんどなかったのだが、それを差し引いても充分に観る価値あり。監督はNHK番組制作出身。映画は美術館からの要請でなく監督からの申し出であり、当初は企画テーマもあえて設定しない、劇場公開すらできないかもしれないと美術館側と覚書を交わしたんだと。つぶさに美術館の日常を記録として撮るなかで、色んなことが浮きぼりになったその内容が興味深いのである。
仮移設のため包帯ぐるぐる巻きロダンがクレーンで吊られるシュールな画、新たな作品購入のための履歴調査に始まり外部見識者も交えての会議、所蔵作品調査はX線や赤外線、ときにライト当てながら肉眼頼りにヒビ割れや塗料の剥落など発見し修復について議論したり。。。とこれはこれでふむふむ。
そして何より浮かび上がったのは美術館における人員不足や経済的な実態。現在国立西洋美術館で働く、館長、学芸員、修復家など常勤務者はわずか20数名。安易に比較できないがルーブルが2200人というからその違いに驚き。運営予算も切実で、輸送量や保険料の高騰もあるが、現館長が14年ぶりに戻った時には以前の予算の半分になっていたんだと。
諸外国では美術館が企画展を主催し運営することで美術館の利益になるが、日本では予算上美術館自身が企画展を主催できる体力などなく、新聞社などのマスコミ企業がスポンサードして初めて成り立つ。これは日本独自のシステムなのである。
特に国立の西美ともなれば、日本の他美術館のモデルとならねばならない責務もある。美術館に行って何百年も前の作品がそこにあるということは、彼らの絶え間ない努力あってこそなんですね。しかも少数精鋭で。前館長のスピーチシーンで「コレクションは元々松方幸次郎が集めたものだが国民のもの」と。
監督がつけたこのタイトルには「わたしたちの、、、」とある。我々はこのような実態を知って美術館に訪れるべきじゃないかと思わせる映画。